私的読者記録大公開 みよの読書日記



★第10回★「魔女とりんごと世界とわたし。の巻」

『西の魔女が死んだ』(梨木香歩・著/小学館)。
いいタイトルである。
完成された四方陣が欠けてしまった、そこはかとない悲しさがとてもよくわかる。
そしてそれは、わたしたちの世界で日毎繰り返される自然の営みの匂いなのだと思う。

魔女はどちらの側にもつかないのだと、かつて何かで読んだ。
正義と悪。
大と小。
富と貧。
状況によって彼女は、(一時的に)いずれか一方のために仕事をする。
それはそれ以上でも以下でもない。
それにより、(やはり一時的に)他方を不幸たらしめることはあったかもしれないけれど。

魔女は凛としている。
外界からの影響を己の中で最小に留めることに力を注ぎ、揺らがぬよう、支配されぬよう、在ろうとしている。
「そう」なのではなくて、いつだって「そうしよう」としているのだ。
そうして、すっくと立っている。

西の魔女が築いたもの。
それは軽やかなリズムにのるステップの心地よさであり、よい香りを漂わせて芽吹いてゆくはじまりの清清しさであり、生命が自在に躍動する、健やかで清潔な生活だった。

この物語は、まっすぐに伸びた背中のように美しいのだと思う。

魔女の死で失われるものは大きいが、得るものも等しく大きい。
何故って、魔女だからだ。

最後に、わたしが魔女の友人から教わった素敵な秘密を記しておく。
魔女の代表的な食べ物の1つにりんごがあるが、このりんごを、芯と垂直向きで半分に切ってみてほしい。
魔女がりんごを好んで食べる所以が、きっとわかる。

2008年1月4日



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